食品製造T社、添加物不使用での年間品質安定化をAIで実現 廃棄ロス削減とノウハウ継承も達成
添加物不使用の方針を維持したまま、季節・気象変動による品質ばらつきを抑える手段がなかった
食品製造企業T社では、調味料製品の品質が季節や気象条件によって変動しやすく、年間を通じた均一な味・品質の維持が課題だった。添加物による品質調整は取らない方針だったため、環境変動に対応する別の手段が必要だったが、具体的な方法が見つかっていない状態だった。
製造現場では気温・湿度・降水量・日照角度など多くの外部条件が品質に影響していると経験的に認識されていたが、どの要因がどの程度寄与しているかはデータとして整理されておらず、品質調整は熟練担当者の勘と経験に依存していた。特定の担当者が培ったノウハウが後継者に引き継がれにくく、品質管理の継続性も課題となっていた。
差別化要素として「添加物不使用での品質安定」を訴求したかったT社にとって、この課題の解決はブランド戦略上の優先事項でもあった。
「一見無関係なデータも全量投入」の多変量学習モデルを構築し、1年以上かけて精度を積み上げ
当社はまず、製造記録・設備データと外部の気象データ(温度・湿度・降水量・日照角度)を合わせて収集・整備し、品質変動との相関を分析した。一見関係のなさそうな気象データも意図的に全量投入するアプローチを取り、多変量モデル(多数の説明変数を同時に扱う予測モデル)が予期せぬ要因の影響も学習できるよう設計した。
モデルは一度構築して完成するものではなく、製造サイクルと季節変動を経験するために1年以上の期間をかけて精度を積み上げた。モデルが示す最適製造条件を参照しながら実製造を行い、結果をフィードバックする運用サイクルを繰り返すことで、実際の品質安定化に必要なモデルの調整が進んだ。
データ収集・ラベリングの整備とモデル学習を並行して進める体制を社内に構築したことが、長期にわたる精度向上を支えた。
年間を通じた品質安定を達成、廃棄ロス削減と熟練者ノウハウのデータ化も実現
導入後、季節や気象変動が製品品質に与える影響をコントロールできるようになり、年間を通じて安定した品質での製品提供が実現した。添加物に頼らない品質安定化を達成したことで、T社が目指すブランド差別化の軸として活用できる実績となった。
品質予測をもとに製造量の調整が可能になったことで、品質不安定時の廃棄ロスが削減された。また、熟練担当者の判断基準がデータとして可視化されたことで、後継者への引き継ぎ精度が上がり、品質管理の継続性が確保された。
導入効果が出るまでに1年以上の期間を要したプロジェクトだったが、T社との中長期の視点での取り組みとして、成果を積み重ねることができた。
まとめ
本事例は、添加物不使用での年間品質安定化という難易度の高いテーマに対し、一見無関係な気象データも含めた多変量学習アプローチを採用し、1年以上の積み上げを経て品質安定を実現した取り組みである。
こうした「現場の経験則や判断基準をデータとして言語化し、AIモデルの設計・学習・運用サイクルとして実装・定着させる」進め方は業種を問わない。当社はデータ収集体制の整備から多変量モデルの設計・学習・運用サイクルの定着まで一体で支援しており、今後も、属人化した品質管理や継続性の確保を課題とする企業に対し、業種を問わず現場の実態に根ざした支援を提供していく。