鉄道運行事業者P社、遅延時のダイヤ修正を数理最適化で自動提案 ベテラン依存を解消し対応品質を平準化

⏺︎ 鉄道運行事業者P社 遅延発生時のダイヤ修正を数理最適化で支援し、ベテラン依存の解消と対応品質の平準化を実現した事例
ベテランの定年退職で、10年積み上げた暗黙知が失われるリスクが顕在化

鉄道運行事業者P社では、遅延や運休が発生した際のダイヤ修正を、長年のベテラン管理者の判断に依存していた。キャンセル・発着変更・折り返しといった対応をその場で組み合わせるには、路線ごとの特性や制約条件を深く理解した経験が必要であり、習得までに10年程度かかるとされる暗黙知だった。

ところが定年を超えたベテランが退社し、後任となるベテランも2〜3年以内に交代が予定される状況だった。新たに運行管理を担う担当者はシステムの動きを把握しにくく、ダイヤ修正判断の質の維持に不安が生じていた。

属人化した対応ノウハウが世代交代によって失われる前に、判断を支援するしくみを整備することが、P社にとって緊急性の高い課題だった。

対象路線の運行条件をルール化し、遅延時に最適なダイヤを自動提案

当社はまず、P社の路線ごとに線路容量・車両運用・乗務員規則・接続列車の制約を整理し、ダイヤ修正時に必要な制約条件のモデル化を行った。遅延・運休が発生した際に、キャンセル・発着変更・折り返しの組み合わせを自動計算し、制約を満たした上で最適なリカバリ案を提示する数理最適化エンジンを実装した。

なお、実装にあたってはベテラン管理者へのレクチャを通じてP社固有の運用ルールをデータ化し、モデルの精度を大幅に向上させた。人から聞いた判断基準をモデルに落とし込む工程が、予測精度の鍵になった。過密ダイヤの路線区間については精度維持のためにスコープを絞り、団体臨時列車などイレギュラーケースはスコープ外として段階的に導入した。

運行管理者は提示された修正案を確認・承認する形で最終判断を担う構成としており、自動化が責任の所在に影響しない運用フローを維持している。

ダイヤ修正の判断時間を大幅に短縮、新人もダイヤ調整を早期に習熟

導入後、遅延発生時のダイヤ修正候補が自動で提示されるようになり、管理者が手動で組み合わせを検討していた判断時間を大幅に短縮した。ベテランが属人的に行っていた制約条件の照合が自動化されたことで、対応品質が担当者によらず一定水準に保たれるようになった。

新人担当者にとっても、修正案と根拠が画面上に可視化されることで、ダイヤ修正の流れを把握しやすくなった。これまで時間をかけなければ身につかなかった路線の特性への理解が早まり、業務習熟を支援する効果も生まれている。

ベテランの退社後も、蓄積したモデルとルールが継続的に機能する体制が整い、暗黙知の喪失リスクが実質的に低減した。

まとめ

本事例は、世代交代に伴い運行管理ノウハウの喪失リスクが高まっていた鉄道事業者に対し、ベテランの判断ロジックをモデルとして明示化し、遅延時のダイヤ最適化を支援するしくみを構築した取り組みである。

本事例の核は、熟練者の判断ロジックを制約条件のモデルとして明示化し、人による最終承認と組み合わせて品質を保った点にある。こうした「現場の判断やルールを言語化し、システムとして実装・運用定着させる」進め方は、扱う制約が変わっても業種を問わず通用する。当社はその一連を一体で支援しており、今後も、属人化や負荷の集中を課題とする企業に対し、業種を問わず現場の実態に根ざした支援を提供していく。